江戸時代は、セックスマニュアルが人気だった?

さて、ここまで4回にわたり『艶本』についてご紹介してまいりましたが、艶本の中には、セックスマニュアル的な物も少なくありませんでした。今回ご紹介する一作、ベストセラーとなった『閨中枕文庫』はその代表ともいえるもので、「艶色の一道此巻中に尽せり」(えんしょくのいちどうこのかんちゅうにつきせり)。
すなわち、「この一冊で、セックスの全てがわかる!」
と銘打った、江戸のセックスマニュアルの決定版です。
男性器、女性器の詳細解説からはじまり、月経についての医学的な研究、女性器の解剖学的な研究までが盛り込まれた、本格的な研究書なのです。もちろん、セックステクニックについても、詳細な解説がされています。かいつまんで現代語訳してみましょう。
これが、江戸時代のベストセラーセックスマニュアル『閨中枕文庫』の教え!

(1)「帯を解いたら女性の体を抱きかかえ、ディープキスをしつつ乳を責め、女性に 男性器を握らせよ
「帯を解くだけで、着物は脱がさないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は江戸時代はエアコンがなかったこともありセックスの際に全裸になることはあまりありませんでした。基本的に着衣セックスだったのです。
(2)「男性は陰毛からゆっくりと手を這わせ、クリトリスを指で優しく愛撫すべし。すると女性は次第に濡れ、鼻息荒く体が熱くなる。挿入をせがむようになってから、ゆっくりと挿入すべし」
前戯の大切さが詳しく書かれています。
(3)「それから挿入となるが、射精を焦ってはならない。女性が絶頂 に達するのには時間がかかるのだから、イキそうになっても気をそらすようにして、じっくりと交合すべきである
現代でも注目を浴びている「スローセックス」に通じる考えが、日本の江戸時代からあったことに驚かされますね。
(4)「ただピストン運動をするのではなく、口は口を吸い、両手は乳を愛撫せよ。女性の唾は妙薬であるから、嫌がらず飲むように」
いよいよ、クライマックスに向かいます。
(5)「女性が感じると、体が熱くなり、愛液が潤って、子宮口が開く。そこを九浅一深のリズムで責めれば、女性の感覚はどんどん性器に集中して、女性器がふくらみ、愛液が溢れんばかりになる。そうなったら深く挿入し、女性を堅く抱き締め、目を閉じ、呼吸を抑えて、女性をイかせるべし。しかる後に射精せよ」
男性が一方的に快楽を貪る、いわゆる「ジャンクSEX」とは正反対の、男女が共に悦びを分かち合うセックスのあり方が、ここには 書かれています。
庶民の男女が対等なパートナーとして性を楽しむ時代が「江戸時代」!

江戸時代は一般に、女性の権利が抑圧されていた時代だったと考えられています。しかし、江戸時代は身分によって、生活が著しく異なる時代でもありました。武家の女性はかなり抑圧されていましたが、庶民の女性はある意味、現代よりも解放されていたのですね。
自由に性を謳歌する女性たちを、男性も抑圧しようとはせず、対等なパートナーとして性を楽しむ。そんな理想郷が、江戸の片隅に存在していたと考えるのは楽しいですね。
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1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。