海外で大人気!日本の春画
刷物・肉筆を問わず、セックスを描いた日本画を、春画と呼びます。
江戸時代、時にはお上の規制を受けることもありましたが、春画は日常的に流通していました。
明治時代以降、西欧のキリスト教的価値観に基づいて、春画は規制・弾圧され、残念ながら日本の表舞台から姿を消していきます。
しかし、海外に流出した春画は、逆にその芸術的な価値を認められ、コレクターの間で珍重されたのです。2013年に大英博物館で開催された春画展は、9万人に迫る入場者(うち6割が女性)を集め、各国を巡回して、春画ブームを巻き起こしているのですよ。
今回は世界中の人を魅了する「春画」の歴史と魅力についてご紹介していきましょう。
あの有名画家も春画を描いていた!?
昨年、東京で「春画展」が開催され、日本でも春画の価値が、ようやく見直されつつあります。江戸時代の人々にとって、春画はポルノとしての実用品であったのは当然として、経験不足のカップルには大事なマニュアルであり、縁起物ですらあったのですよ。
江戸時代、春画を描くことは、別に不名誉なことではなかったので、高名な絵師や浮世絵師のほとんどは、春画を手がけています。たとえば『富嶽三十六景』の葛飾北斎は、タコと女性が絡む絵を描いていますし、歌川国芳や喜多川歌麿も、春画の傑作を手がけています。
特に春画で知られるのは、浮世絵の始祖である菱川師宣と、錦絵の創始者である鈴木春信でした。菱川師宣は、『新撰好色いと柳』や『恋のむつごと四十八手』などの、恋愛・セックスハウツー本をものしています。いつの時代も、恋愛やセックスのハウツーは人気だったのですね。
『新撰好色いと柳』は、日本史上最高のモテ男といわれる、在原業平(ありわらのなりひら)の秘伝という体の、ナンパマニュアルです。ですが、何しろ江戸時代の本ですので、今では過激…というより、場合によっては通報されそうなテクニック(相手の親に金品を渡せ、とか)が多いようです。
『恋のむつごと四十八手』は、「四手(よつで)」(正常位)、「茶臼(ちゃうす)」(騎乗位)などの一般的な体位の紹介だけでなく、「君膝枕(きみのひざまくら)」(女性の膝枕で眠る男性)などの独自のイチャイチャも、四十八手として紹介しているのが特徴的です。挿入ばかりがセックスではない、という考えは、江戸時代にもあったのですね。
春画は江戸時代の、重要な嫁入り道具の1つ!
実際、嫁入り道具の中に、そっと春画を忍ばせるのが、当時の習慣でした。これは経験不足の娘に与えるマニュアルであったと同時に、縁起物としての意味もあったようです。
そのようにして使われるうちに、いつしか春画は「めでたいもの」として扱われるようになり、「蔵の中に春画を入れておくと火事を免れる」「鎧櫃の中に春画を入れておくと、弾丸に当たらない」という俗信も生まれました。
この俗信は日露戦争の頃まで続き、軍が「弾に当たらぬおまじない」として、春画を配布することまであったそうです。
また春画の特徴の一つとして、「着衣のままのセックス」が描かれていることが多く、全裸でのセックスが描かれていることは少ないことが挙げられます。これは、空調設備がなかった江戸時代、セックスは普通、着衣のままおこなうものであったからといわれています。
そのほかに実際に呉服商がスポンサーになっていたケースもありました。春画は広告の一つでもあり、ビジネスの世界でも活躍していたというのは驚きですね。
現代の女性には『春画』を一度も見た事がない、という女性も多いかと思います。今はラブテクニックはインターネットの膨大な情報の中からいくらでも探せるから…というご意見もあるかもし れませんが、縁起物という観点で春画を手にしてみると、もしかしたら何か良い出来事が起きるかもしれませんよ。この機会に是非『春画』の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。