前回は「セックスを通じて女性から精気を得て、不老長寿を保つ方法」についてご説明しましたが、『医心方・房内』には、女性が男性から精気を得ることについても書かれています。
精神も交わるべき平安時代のセックス
「男性は精気を充実させ、女性は病を除くことが、交わりの本旨です。それによって、互いの心が楽しくなり、気力がますます盛んになります。ところが、その道を知らぬ者が交わると、かえって心身を衰弱させてしまいます。その道を学ぶには、第一に心を安らかにし、志を和やかにすることです。精神が統一されて動揺しなければ、邪念が去り、心身が正しく定まって、性情もおのずからのびのびと、ゆったりしてまいります。」
セックスで男女が共に健康になるためには、どちらかの欲望に一方的に応じるのではなく、お互いに陰陽の精気を感応させるのが理想です。お互いに心を安らかにし、志を和やかにしましょう。このような精神的和合のことを、和志(わし)と言います。
平安時代のセックス 互いに感じ合う

男性は射精をすれば一定の快感を得ることができますが、それは和志に基づいたセックスから得られる快感と比べると、極めて味気ないものです。
「陰陽は、互いに感じ合ってこそはじめて反応するものです。男の方が交わりたいと思っても、女の気が進まなかったり、女が交わりたいと望んでも、男が嫌がれば、陰陽二つの心が和まず、精気は感応しません。それのみならず、一方的に急に激しく粗暴な行為をしても、快感を得ることはできません。」
女性は、濡れないうちに挿入されると、痛いばかりか、ケガをする危険すらあります。「無理矢理なセックスの時にも、女性のアソコは濡れる」と思い込んでいる男性もいるようですが、これはケガを防ぐための、体の防衛反応です。性的な行為の無理強いは断じて許されないことなのです。
「自分の陰気を養う方法を会得した上で、陰陽二気を和合させると、男の子を受胎することができます。また、受胎せずとも、受けた陽気は津液(しんえき、愛液の神髄)に転化し、体中に循環して流れ込みます。そうすると陰気も養われ、百病も消え去り、顔色はつややかに、肌もなめらかになり、寿命も延びて老衰することもなく、いつまでも少女のような若々しさを保つことができます」
この『医心方・房内』が典拠とした古代中国では、女性の最大の使命は、男子を産むことでしたから、この方法は真剣に研究されたに違いありません。そして、この道に精通すれば、男性の精気を吸収し続けることができ、飢えも感じない…とまで書かれているので、当時このことがどれほど大切だったかをうかがい知ることができます。
また、次のように記されています。
「男性が女性を求め、女性も男性を求めて、互いに意気投合すれば、ともに愉悦を感じるものです。ですから、互いに充分な前戯をして、男性器が盛んに勃起し、女陰がうごめいて、津液がトロリと垂れるようになったところで、男性器を挿入し、ゆっくり、あるいは早いテンポで、腰を使ってください」
セックスは平安時代の頃から、お互いを深く理解する繊細なコミュニケーションが必要だったということがわかりますね。
平安時代のセックス 前戯の大切さ

そして、最後にはこのように書かれています。
「性的な欲求不満から、精霊(この世の者でない者)と夢の中で交わることを続けると、食欲を失って痩せてしまうと言います。」
「男性は左側、女性は右側に位置を取り、男性は両脚を投げ出して座り、女性を胸に抱きます。腰のくびれをかかえこみ、あちらこちらを、女性が十分に反応するまで撫でさすります。
それから強く抱いたり締め付けたりして、お互いの唇を触れ合わせます。男性は女性の下唇を、女性は男性の上唇を舐めながら、互いの唾液を吸うようにします。それから、軽く舌や唇を噛んだり、頭を両手で挟んで引き寄せたり、くっついて耳をつまんだり、左右のほっぺたを吸ったりします。
こうして、ありとあらゆる姿態を繰り返しているうちに、体の硬さや心の羞恥がすっかりほぐれていきます。そうなればしめたもので、女性の左手に男性器を握らせ、男性は右手で女性器を愛撫します。
すると男性は、陰の気に感じて男性器がそそり立ち、女性は、陽の気に感じて膣が潤います。これは、陰陽の二気が互いに感応した結果であり、人間の力で成し遂げたと思ってはいけません。交わるのは、この段階に至ってからにすべきです。」
平安時代のセックス 挿入後の注意点
挿入後については、このように戒めています。
「男性器が硬くはち切れそうなほどに怒張し、今にも射精しそうになったなら、急いで引き戻し、ピストン運動のペースをゆるめましょう。
また、高い確度から、乱暴に突き込んではいけません。五臓の位置を狂わせたり、血管を傷つけたりして、女性を病気にしてしまいます。」
現代の男性も忘れてはいけない部分なのではないでしょうか。女性を病気にしてしまうかどうかは兎も角、パートナーを喜ばせるセックスを心掛けたいものですね。
『医心方・房内』の基本は「接して洩らさず」です。二人が満足できるセックスは焦ってフィニッシュを迎えるようなセックスでは無いはず。平安時代のこの考え方は今にも必要かもしれませんね。
■イラスト:フジワラアイ
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。