平安時代に書かれた、日本最古の医学書「医心方」。全三十巻に渡り、医師の倫理から保健衛生にまで踏み込んで書かれたこの書物の中に、「巻二十八 房内編」が含まれています。「房内」とは夫婦の寝室のことで、転じてセックス全般のことを指します。「房内編」には、セックスを通じて健康になり、不老長寿を得るための知識やテニックが書かれています。「房内編」では主に、男性が女性の精気を得る方法について書かれていますが、我々のナイトライフを豊かにする知恵を読み取ることもできます。
平安時代のナイトライフの世界へ、皆さんをご案内します!
平安時代のセックスについての基本的な考え方

『房内編』では、過度の禁欲も、過剰なセックスも避けて、『房中術』を身につけ、適切なセックスを行うべきであるとして、次のように説いています。
「人間として生まれた以上、男性も女性も陰陽を交えないでいると、体に毒素が溜まり、病にかかってしまうものです。だから、わびしく孤独をかこつ者は、病気がちになり、長生きしません。逆に、欲情の赴くままに振る舞うのも、命を縮めます。節度を守り、ほどよく調和の取れた性生活を行えば、健康な生活が送れます」
房中術において、男女の交わりは陰陽和合であり、正しい性生活は健康と不老長寿の源であるとされています。過度の交わりも過度の禁欲も正しい道ではないため、正しい交わりの仕方を知らねばなりません。
「男性には守るべき八つの決まり(八節)があり、女性には九つの定め(九宮)があります。この決まりや定めを無視して、いたずらにセックスすると、男性も女性も体を壊して、ついには命を失うこととなります。しかし、その道をよく心得て交われば、愉快に楽しみ、身体強健で、顔色も良く、長寿を保つことになるでしょう」
禁欲を戒める理由
『房内編』は、無理な禁欲を厳しく戒めますが、その理由として次のように書かれています。
「天地陰陽の両気は、開き、閉じ、春夏秋冬・昼夜明暗と移り変わります。人間もまた、この自然の営みに従うものですから、無理に禁欲すれば、せっかくの伸び始めたエネルギーが抑えつけられ、陰陽の道が途絶し隔離してしまいます。どんな健康法を実践しようと、ペニスを全く使わなければ、やがてペニスは使い物にならなくなってしまうでしょう」
過剰なセックスを戒める理由

同時に、過剰なセックスも強く戒めています。
「男性は、三十歳頃までは血気盛んで、欲情の赴くままに交わることもできますが、三十歳頃を過ぎると、急激に気力の衰退を感じます。無理なセックスを続けてきたなら、その時には既に何かの病気にかかっているでしょう。そうして、そのままにしておくと、ついには命を落とすのです」
当時の三十歳は、今の四十歳かそれ以上と読み替えるとよいと思います。精力に溢れているからと言って、中年になっても無謀なセックスを続けていると、体を壊し、死に至ると言うのです。
平安時代の日本では、この考え方を基本として、セックスアドバイスがされていたのです。
房内編は「命にかかわる」という表現が多いことからも、現在以上に大切なことと考えられていたのかもしれませんね。
次回より、その様々な考え方とテクニックをご紹介いたします。どうぞお楽しみに!
■イラスト:フジワラアイ
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。