深すぎる愛のあまり…「六条御息所」
六条御息所(ろくじょうみやすどころ)は、桐壺帝(きりつぼてい、源氏の父)の弟であった東宮(前坊)の妃でしたが、東宮と死別後、光源氏と恋愛関係に陥ります。
源氏の妻や恋人に忍び寄る生き霊の正体


彼女は源氏に劣らぬ、深い知性と教養の持ち主でしたが、逆に源氏はそんな彼女を持て余し、距離を置くようになります。そして、その距離を自分から詰めるには、彼女のプライドはあまりにも高かったのです。
やがて、源氏の恋人であった夕顔が、物の怪に憑(と)り殺される事件が起こります。物語中ではこの物の怪の正体は明かされませんが、六条御息所の生き霊ともされています。源氏が夕顔を喪った後しばらくして、源氏の正妻、葵の上(あおいのうえ)と、六条御息所の間に争いが起こります。牛車で賀茂祭の見物に出かけた彼女は、葵の上の牛車と車争いになってしまうのです。
葵の上の従者たちは、正室のプライドにかけて道を譲らず、車争いに敗れた六条御息所のプライドは大いに傷つきます。それから少しして、源氏の子を身ごもっていた葵の上は病に倒れます。彼女を見舞った源氏は、葵の上に生き霊が取り憑いていることを悟り、生き霊が何者か問い質します。生き霊は
「嘆きわび 空に乱るる我がたまを 結びとどめよ したがひのつま」
(悲しみに耐えかねて、抜け出た私の魂を、着物の下前のつま―妻とかけている―で、結びとどめてください)
と歌を詠み、源氏は生き霊の正体が、六条御息所であることを知って戦慄するのです。
自分自身をも苦しめる強い想い

一方、六条御息所自身も、自分の体に物の怪を祓うために焚かれた護摩(炎などで煩悩や業を焼き払う祈祷などの一種)の、芥子の香りが染みついていたことから、葵の上を苦しめていたのが自分の生き霊であることを悟り、「死んだ後ならまだしも、生きながら人を呪うとは、何と忌まわしいことか」と、深い自己嫌悪に沈みます。
しかし生き霊は、彼女自身の心とは裏腹に、とうとう葵の上を憑り殺してしまうのでした。葵の上を死に追いやってしまった彼女は、斎宮になった娘に付き添って伊勢へと下ります。そうして源氏への思いを断ち切ろうとし、ついには出家をするのです。
しかし、彼女のその決意とは裏腹に、死後も怨霊として、源氏の恋人たちを苦しめ続けるのでした。
「適度な距離感」が大切
高いプライドをもつ六条御息所が源氏に対して抱いていた、強くて深い愛。このような愛情を相手に抱けるというのは、女性としては幸福なことなのかもしれません。しかし、それが「執着」という形で表出してしまうと、相手や周囲の人を傷つける結果になることもあるのでしょう。
現在に生きる私たちにも、生き霊や怨霊としては表れないまでも、深すぎる愛のあまり、パートナーや二人の関係を傷つけてしまうことがあるかもしれません。特に、
- パートナーの携帯の履歴をついチェックしてしまう
- パートナーと連絡がつかない時間があると、落ち着かない気持ちになり、何をしていたのか問い質してしまう
などの振る舞いがみられる方は、六条御息所タイプなので要注意。こういったことをついしてしまいそうになった時には、
- 友達とお出かけなどをして、おしゃべりをする
- 携帯の電源を切り、スポーツや趣味に没頭する
などの方法で、気分転換をするといいでしょう。パートナーとの距離を上手く保ち、ストレスをためこまないようにしましょうね!

1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。