やっと素直になれたときにはすでに遅かった…『葵の上』
葵の上(あおいのうえ)は、光源氏(以下源氏)の最初の正妻で、源氏の親友、頭の中将の妹です。父は桐壺帝時代の左大臣。結婚したときは、源氏12歳、葵の上16歳で、源氏より4つ年上でした。
源氏物語の登場人物で一番のツンデレ!?


葵の上は后がね(きさきがね、皇后候補)として育てられましたが、父である左大臣の思惑により、源氏の正妻となります。源氏は帝の子とは言っても、源姓を賜った臣下の身。「本当なら帝の后になるはずだったのに…」という思いから、葵の上はつい、源氏を冷たくあしらってしまいます。
しかもその頃の源氏は、義母にして初恋の人・藤壷中宮のことで頭がいっぱい。2人は夫婦でありながらも、心はすれ違い続けるのでした。
そんな葵の上ですが、結婚10年目にして、源氏の子を身ごもります。周囲は喜びに沸き、源氏もまた、つわりで苦しむ葵の上の姿に、愛おしさを覚えるようになります。こうしたきっかけで2人のあいだに、ようやく心が通いはじめました。
心が通った直後にあっけなく…

源氏の子を身ごもったことで彼と心を通わせ始めた葵の上は、賀茂祭の見物に牛車(ぎっしゃ)で繰り出します。その際、彼女の牛車は、源氏の恋人の1人である六条御息所(ろくじょうみやすどころ)の牛車と、道を譲る譲らないの車争いになります。
争いは葵の上の勝利に終わりましたが、それをきっかけに、六条御息所の生き霊が葵の上を苦しめるようになります。葵の上は苦しみながらも、男子(のちの夕霧)を出産します。
産後の、やつれながらも美しさを失わない葵の上を見舞った源氏は、
「年ごろ、何ごとを飽かぬことありて思ひつらむ(何年も、この人の何を、物足りないと思っていたのだろう)」と、あらためて葵の上を愛しく思うのでした。
しかし、生き霊に苦しめられたためか、葵の上は産後すぐ、あっけなく他界してしまいます。源氏は、「どうして生きているあいだに、もっと愛情を示してやらなかったのだろうか。
自分が浮気ばかりしていたから、彼女は生涯、心から打ち解けてくれなかったのだ」と、葵の上に冷たく当たってきたことを深く悔やみ、喪に服すのでした
「葵の上」タイプの人は…
現代でも、上手く愛情表現ができずにすれ違ってしまっているカップルは少なくないはず。もちろん、浮気ばかりしているパートナーは問題外です。しかし、女性も「私にはもっとふさわしいパートナーがいるはず」と思いこみ、現在のパートナーや好意を寄せてくれている男性の、自分とは合わない点ばかり気にしてはいませんか?
源氏は自ら心を開かなかったことを嘆きますが、自分から心を開かなかったのは葵の上も同じでした。
もしかしたら、こんな人は葵の上タイプといえるかもしれません。
- 彼がアイドルや他の女性を褒めたときに、ムッとして態度に出してしまう
- 本当は彼を好きなのに、彼の前で他の男性の優れている点を取り上げて、比較する発言をしてしまう
せっかく相手を思う気持ちがあっても、コミュニケーションはやはり言葉が中心。素直でない発言で誤解を招いてしまうことが多いかもしれません。
「人の命はいつ失われるとも限らないのだから、縁があって結びついた相手なら、つまらないプライドを捨てて、心を開いて付き合おうではないか」…葵の上と源氏のエピソードからは、そんなメッセージを読み取ることができます。
そこで葵の上タイプの女性は、
- いつ何が起きるかわからないからこそ、自分の気持ちに素直になって、相手に好意を伝えよう!
- 相手のいい部分にこそ目を向けて、自分から相手のことをもっと知ろうとしてみよう!
と行動するのはいかがでしょうか。
源氏や葵の上のように自ら動かずに後悔するのではなく、自分から積極的に動くことで素敵な恋愛をしてくださいね。

1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。