現代の感覚では、やや前戯を軽視しているようにも見える『黄素妙論』ですが、戦国時代のセックスのテクニックへのこだわりは、体位だけではありません。特にピストン運動にはこだわりがあるようで、ページを割いて詳しく書かれています。
『黄素妙論』の概論

『黄素妙論』では、挿入からピストン運動、そして女性のエクスタシーについて次のように記されています。
「セックスで女性を満足させるには、必ずしも深くまでペニスを挿入する必要はありません。また、女性が大きなペニスを好むというのも迷信です。大事なのはむしろその場の雰囲気や、その女性の性感帯を刺激することです。」
「絶頂した女性は、周囲を忘れて別世界に入り、羞恥心も失われ、感極まって歯を食いしばり、全身を震わせます。鼻息荒く、目を閉じ、声を上げ、顔は赤くなって愛液が溢れます。」
ペニス挿入の深さに呼び名がつけられていた
『黄素妙論』では、ペニスを挿入した寸法により、それぞれ呼び名がつけられています。挿入に対してのこだわりが強く表れている一面と言えるでしょう。
(一寸=鍼灸の寸法で、2センチ弱)
- 一寸…琴弦(きんげん)
- 二寸…菱歯(りょうし)
- 三寸…嬰鼠(えいそ)
- 四寸…玄珠(げんしゅ)
- 五寸…谷実(こくじつ)
- 六寸…兪鼠(ゆそ)
- 七寸…昆戸(こんこ)
- 八寸…北極(ほっきょく)
八寸とは十五~十六センチくらいですから、奥の奥までしっかりと挿入したところでと考えられます。単にペニスを挿入するだけでなく、女性の膣の伸縮まで活かさなければ、この深さまで挿入するのは困難でしょう。まさに、究極のテクニックがあればこそ可能となる挿入といえます。
深いだけの挿入は、男女の体を傷つける
挿入の深さにこだわる男性や女性もいますが、深ければよい、というものではありません。『黄素妙論』では「いたずらに深い挿入は、男女の体を傷つける」とされています。
「常に谷実(五寸、十センチ弱)に至らしめていると、必ず肝臓を壊し、目の病にかかります」
これは当時、肝臓は目とつながっていると考えられていたためです。他にも挿入の深さに応じて、次のように書かれているのです。
「常に兪鼠(六寸、十二センチ弱)に至らしめていると、必ず肺臓を壊し、吐き気と腰痛に襲われます。」
「常に昆戸(七寸、十四センチ弱)に至らしめていると、必ず脾臓を壊し、黄疸を起こして、腰はしびれ、股は縮み、腹が痛みます。」
「常に北極(八寸、十六センチ弱)に至らしめていると、必ず腎臓を壊し、さまざまな病気で苦しみます。」
体を壊してはたまりませんから、このように言われれば、闇雲に深く突くことは控えたのではないでしょうか。
挿入はただ深ければよいということではない…。女性視点での助言ではありませんが、女性にとっても嬉しい指摘と言えそうですね。
ここまではセックスでのペニス挿入そのものについてのこだわりと考え方をご紹介しました。挿入時のピストンへのこだわりを、次回ご紹介いたします。お楽しみに。
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。