コウテイペンギンのカップルは毎年パートナーが違う?!


吹雪に耐えて絶食しながら卵を温め、パートナーを失えば自ら「ペンギンミルク」を分泌してヒナに与える。南極を舞台としたドキュメンタリー映画でも描かれたコウテイペンギンのオスのイクメンぶりに、感動した人も多いはず。でも、映画ではカットされていましたが、コウテイペンギンのカップルは毎年パートナーを替えるのです。
「自然界には愛などないのか…」
絶望するのはまだ早いです。同じペンギンという種の中で、「イワトビペンギン」は60%近くが、生涯を同じパートナーと添い遂げます。しかも、彼らは、1年の半分を離れて暮らす「遠距離恋愛カップル」でもあるのです。
強い絆で結ばれた遠距離恋愛カップル「イワトビペンギン」

イワトビペンギンは、成獣でも体長50センチほどの小さなペンギン。目の上の、眉のような黄色の羽毛と、そこから後頭部にかけて冠のような羽毛が生えているのが特徴です。その独特の愛らしさから、ぬいぐるみやゲームのキャラクターになったこともあり、動物園や水族館でも、比較的お目にかかりやすいペンギンです。
ペンギンというと氷に覆われた極寒の地「南極」を思い浮かべるかもしれませんが、イワトビペンギンは南極ではなく、インド洋南部から南大西洋にかけて生息しています。見た目の愛らしさに反して意外と攻撃的なので、もし出会っても、あまり近づかない方がいいかもしれません。
イワトビペンギンの繁殖地はアルゼンチンの東にある島「フォークランド諸島」、ニュージーランドの南西にある「マッコーリー島」、マダガスカルと南極のあいだにある「プリンス・エドワード諸島」や「クローゼー諸島」、その東側にある「ケルゲレン諸島」など南半球の島々です。しかし繁殖地に留まるのは10月から5月にかけての半年間だけで、残りの半年は外洋で生活し、このあいだカップルは離れ離れになってしまうのです。調査によると、平均で600~2500㎞も離れて暮らすそうですから、まるで北海道と九州に別れて暮らす、遠距離恋愛カップルのようです。
離れているからこそ、一緒にいるときは仲良く…

春(南半球なので北半球では秋)になると、オスは昨年の巣の跡に戻り、巣を修復しながらメスが帰ってくるのを待ちます。メスは1週間ほど遅れて合流します。巣の位置を間違えたり、パートナーを間違えたりということは、まずないようです。
再会したカップルは、離れていた時間を取り戻すかのように、長い時間をかけて、念入りに求愛行動をします。頭や翼をダンスのように動かして、視覚でお互いを確かめ合ってから、大きな声で鳴いたり、甲高い声をかけあったり、聴覚でコミュニケーションを取るのです。あるいはお互いが本当にパートナーかどうか、最後の確認をしているのかもしれません。そして二羽は互いに近づき合い、体を触れ合わせると、オスがメスの背中に乗って、互いの総排泄口(排泄口と合体したペンギンの生殖器)を接触させて、交尾に至ります。
再会時の心から喜ぶかのような睦まじい様子は、本当に遠距離恋愛のカップルのようです。そして絆を確かめ合ったカップルは、コウテイペンギンと同じくらい過酷な子育てに、協力して取りかかるのです。
読者の方々の中にも、事情で遠距離恋愛や、単身赴任を強いられているカップルも少なくないでしょう。でも、距離があるからこそ、再会のたびに新鮮な気持ちでいられることもあるはず。遠距離恋愛を「我慢」と捉えず、楽しむことも考えてみてもよいかもしれません。
1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。