男女どちらも妊娠できたらいいのに…!

哺乳類はメスが胎内で赤ん坊を育てることにより、卵を産む動物に比べて出産(孵化)までの死亡率を下げるのに成功し、繁栄してきました。しかし現代社会、特に先進国においては女性の社会進出が進んだにも関わらず、未だに女性に妊娠・出産・子育ての負担が集中している状況です。
「女だけが妊娠するのではなく、男でも女でも、都合のつく方が妊娠・出産できるようになればいいのに」 と思ったことのある女性もいらっしゃるかもしれません。実は、自然界を見渡すと、「オスが妊娠に近い形で、負担を引き受ける」生物も存在します。その一つが、タツノオトシゴです。
オスが妊娠する?!タツノオトシゴ

タツノオトシゴは、その外見に負けず劣らず奇妙な繁殖行動をします。こんな外見でも魚類なので、胎生ではなく卵生であり、卵を産むのはメス。
しかし、その卵を育てるための袋、「育児嚢(いくじのう)」がメスではなくオスの方についています。
哺乳類でも、コアラやカンガルーなどの有袋類は育児嚢を持っていますが、彼らの育児嚢はメスにしかありません。タツノオトシゴは逆に、オスにしか育児嚢がないのです。
彼らがどのように繁殖するかというと、メスが輸卵管(ゆらんかん)をオスの育児嚢に差し込み、産卵します。オスは育児嚢の中で卵を受精させるのです。当然、オスの育児嚢は大きくふくらむので、これを指して「オスが妊娠した」ということもあるそうです。
卵が孵化するまでは二、三週間かかりますが、孵化してもオスの仕事は終わりではありません。ある程度の大きさの稚魚になるまで、そのまま育児嚢の中で育児を続けるのです。
有袋類が出産後も、育児嚢の中で授乳と育児を続けるのに似ていますが、オスの仕事であることが最大の違いといえるでしょう。
「妊娠」「出産」は夫婦の仕事

タツノオトシゴのオスは、稚魚がある程度の大きさになると、尾で体を海藻に固定し、体を震わせながら「出産」します。これでようやく、オスの妊娠・育児・出産という大仕事は終了となります。子どもが生まれてから一人で社会に出て行くまで、一貫して子どもを育み守る。この姿は、まさに現代社会の女性が求める「イクメン」の姿ともいえるかもしれません。
日本の人間社会では、男女の給与差が小さくなり働く女性が増えている中でも、まだまだ男性は、
- 「家事・育児を手伝ってあげる」
- 「お迎えは母親の仕事」
- 「休みの日の食事は妻が作る」
のように考える人が多いかもしれません。しかし、そもそも子どもは、夫婦2人のものです。
タツノオトシゴと違って、「妊娠」「出産」という大仕事を、人間の男性には代わることができません。ならば、産まれてきたあとの子育ての負担は、男性も積極的に引き受ける姿勢が必要かもしれません。女性も、
「仕事も家事も育児もパーフェクトに!」
と思い込まず、「夫婦の仕事」の役割分担を、見直してみてはいかがでしょうか?

1970年生まれ。1996年より、漫画原作者として活動。2009年、日刊誌連載「日本性史」にて、アダルトライターとして活動開始。
スマートフォンアプリ「セックスの日本史」、女性向けWEBサイト連載「蔦葛物語」「オンナとオトコの日本史/世界史」などの著作がある。