革命的研究とその留意点

男性の匂いには誰の鼻にも明らかな、絶対的にいい匂い、悪い匂いがある。
一方で、ある女性にとってはいい匂いなのに、別の女性にとってはあまりいい匂いではないという相対的な匂いというものもあります。
今回はこの、相対的な匂いについてお話しします。前回、男性の匂いをまっさらのTシャツにしみ込ませ、匂いの評価を女性が下すという研究を紹介しました。
実はこのTシャツ実験の元祖とでもいうべき研究が、これから紹介する、スイス、ベルン大学のC・ヴエーデキントらが行なった、革命的研究なのです。
方法は前回と同様(というか、こちらが元祖なのですが)、Tシャツにしみ込んだ男性の匂いを女性が評価する。0から10までで、10が最もよい。
男性は自分以外のあらゆる匂いを排除しなければなりません。酒、タバコ、香料の入った石競、コロンなど。そして匂いの強い野菜もだめで、彼女など他の人間もシャットアウトする。
ただ、今回は前回と違い、男性も女性もあるものが調べられる。HLAの型です。
型の違うカードを探す意味

HLAとは、Human Leukocyte Antigen(ヒト白血球抗原)の略。
名称には「白血球」とありますが、実際には白血球だけでなく、あらゆる細胞の表面にある抗原で、実体はタンパク質です。畑胞の表面に立てられた旗印のようなもので、免度の型を意味します。
臓器移植や骨髄移植の際に、型が合う合わないと議論されるのが、このHLAの型の問題なのです。
HLAの遺伝子は、A、B、C、DR、DQ、DPの6つがあり、染色体は一対(2本)ある。だから、ある人間の、たとえばAについては普通、2種類の抗原の型があることになります。DPについても同―。またB、C、DR、DQについても同様です。
そうすると、1人の人間は最大で12種類HLAの型を持っています。トランプにたとえれば、手持ちの切り札が最大で、12種類あるというようなもの。
とすれば、ある女性が相手選びをする際に、どういう相手を選ぶべきで、どういう相手は選ぶべきではないのか。一番避けたいのは、その相手とのあいだに子どもをもうけた場合、切り札が重複してしまうということです。
AならAにせっかく2枠あるのに、同じ切り札を2枚持っても仕方ない。切り札によって病原体と戦うというのに、同じものを2枚持っているとはとても不利なのです。
では、そういうことにならないようにするためにはどうすればよいのか。それが、自分とはなるべくHLAの型が一致しない相手を選ぶこと。でも、どうやって?次回、そのポイントに迫ります。
動物行動学エッセイスト。
1956年生まれ。1979年京都大学理学部卒業後、同大学院にすすみ、博士課程をへて著述業に。
1991年に出版された『そんなバカな!-遺伝子と神について-』は、ベストセラーとなり、第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」を受賞。