初めてのアレ

初めてアレを買ったときのことを、今でも覚えている。
二十代前半の頃。
下着を買おうと見た通販雑誌の後ろのページに、
アレがひっそりと載っていた。
ショッキングピンクの棒アイスのようなアレには、
こけしのような顔がついていて、
全体にエンボスのハート柄があしらわれていた。
横にはさり気なく「微少年」という謎のネーミングが、 筆文字で書かれていた。
「なんだこれは!」
バイブレーターというのは知っているが、
控えめな顔立ちの「微少年」が
回ったり突いたり、ハレンチなことをしてくれるなんて!!
なんかすごい。
私は、申し込みハガキに
痩せて見えるガードルと谷間を作るブラジャー。
最後に迷わず「微少年」の商品番号を書いた。
そしてそっとカバンの中にしまった。
アレを扱うのも恋と同じ

その日、すぐにポストに投函すればよかった。
でもなぜか考えこんでしまった。
「微少年」の価格は二千五百円。
当時の私にとって、安くはない買い物。
ガードルは肉を締め付けて痩せて見せてくれる。
ブラジャーは谷間を作ってくれる。
でも「微少年」は私をどうしてくれるのか、検討がつかなかった。
一週間後、覚悟を決めてポストに投函。
数日後には段ボールに入った「微少年」と初顔あわせ。
透明のケースを開けるときは、ドキドキした。
こけしのようなまっすぐ切りそろえられた髪型と、
切れ長で細い目。
じっと見つめあった後、初の取組。
「微少年」とか言いながら~、「好青年」レベルの刺激なんじゃなーい!?
もう、このこのー!!
そんな期待も崩れ落ちた。
入らなかったのだ。
大きすぎて。
おそらく全長約17センチくらい、直径の最大部は3センチ以上
あった気がする。
初日は無残な結果だったが、アレを使うのも恋愛と同じ。
試運転を続けていたら、少しずつ「微少年」を操作できるようになった。
使用後は丁寧に拭いて、タンスの奥にしまった。
出すときはまた切れ長を見つめながら、丁寧に扱った。
回数が増えるにつれて、私とアレの距離も縮まった。

まるで恋だった。
と同時に、使い過ぎて簡単に壊れてしまった。
当時、恋愛経験なんてほぼなかったけれど、
きっと恋も同じなのだと思った。
大切にしないと、どちらかが壊れてしまう。
その数年後、私は仕事でソレを作ることになる。
毎日デザインを考えたり、市場調査をしたり。
そのときには、もう市場のバイブレーターから顔は消えていた。
でも、いつもバイブを作るときに思うのは、
私が初めてアレを手にしたときのドキドキを、今、この瞬間でも感じる人がいる、
ということ。

あと、切れ長の目はないけれど、無機質でおしゃれなデザインになってもまだ、
私はアレを見つめている。
まだ何か素敵なことができるのでは?という期待をこめながら。

皮エミ(カワエミ)。コスメ、ラブグッズの企画、開発担当。現在18年目。グッズアドバイザー森沢さんと、開発者花川さんの間にいる。エッセイ、コラム、イラスト、4コマ漫画など多数対応。現在もスタッフとして奮闘中。
●note:https://note.com/emikw→少し濃いエッセイ。全体的に性的な視点が多くあります。NGな方はお控えください。