経済とセックスの移り変わり

経済とセックスの移り変わり その4 恋愛結婚への変遷

経済とセックスの移り変わり
     

    平安時代には、すでに「恋愛結婚」が成立していた!?

    平安時代の城下町
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    恋愛結婚」といえば、すごく新しいタイプの結婚のように思われがちですよね。しかし平安時代にはすでに「恋愛結婚」というべきカタチで男女が、それも身分の違いすら乗り越えて結婚する例もあったんです。

    たとえば10世紀前半にかかれたとされる『蜻蛉日記(かげろうにっき)』の作者の藤原道綱母(ふじわらみちつなのはは)。彼女と藤原兼家は、恋愛結婚で結ばれているんです。

    『蜻蛉日記』といえば、古文の授業では夫に浮気された妻が、嫉妬心もあらわに書いた作品と教わる方が多いかもしれません。その印象も間違ってはいないのですが、藤原兼家は高位の貴族の息子でありながら、いや、それだからこそ本当に好きな女性を(その身分を問わず)自分の妻にしたいと考えていました。恋愛結婚主義者なわけです。

    そんな藤原兼家は、貴族の男性は「逆・玉の輿」ねらいの政略結婚しかしないという平安時代の常識からすれば、ずいぶんと「変人のお坊ちゃま」ということになりますよね。藤原道綱母も兼家からのアプローチがあまりにも非常識な気がして当初は拒否感をあらわにしていましたが、やがて彼からの粘り強いアプローチに折れ結婚を決意します。

    恋愛結婚は愛のデフレスパイラルに陥りやすい?

    しかし藤原兼家には藤原道綱母の以前に(同じように)恋愛結婚した、時姫という別の妻がいました。藤原道綱母は決して愛人ではなく、二人目の正妻という複雑な立場です。また兼家という男性は、器用に二人の妻を平等に愛することができたタイプな気が筆者にはします。

    また、彼にいくら愛されたとはいえ、自分は「二番目」という気持ちが夫・兼家に対する疑いや嫉妬を生み、兼家にもイヤがられるうちに本当に彼の浮気心を刺激してしまい…という愛のデフレスパイラルともいうべき現象に、彼ら夫婦は突入してしまったのでした。

    藤原道綱母の場合、夫から経済的援助を受けている側にいます。平安貴族の場合、普通は女性とその家族が、男性を援助するのが普通ですが、彼女の場合はその逆。援助を受けているからこそ、プライドが邪魔し、夫には素直になれなかった道綱母ですが、関係がうまくいかなくなり、夫が浮気しはじめるとやはり悩みます。彼女が(当時の普通のカップルのように)夫を援助している側であれば「あんな浮気男放り出してやる!」となれるのに、そうは出来ない。このような背景もあって「ジェラシーの文学」こと『蜻蛉日記』は書かれたのです。

    藤原家の女性

    「お見合い結婚」の歴史

    恋愛結婚は、愛情が揺らぐと関係が破綻しがちです。童話のようにお互いが大好きなままでいられるカップルも珍しいですからね。一方、おたがいの親同士が決めた結果であったとしても「家と家との結びつきとしての結婚」(以下、「結びつき婚」)は結婚=家と家を結ぶ大事な仕事という感覚があります。夫の浮気があったとして、そう簡単に仕事は辞められないのと同じで、結婚生活を止めるわけにもいきません。関係はゆらぎにくいけど、苦悩も大きいですね。

    それでは「お見合い結婚」は…というと、「結びつき婚」のきっかけというだけでなく、興味深い歴史がありました。江戸時代の庶民の間ですら、恋愛感情だけが先走って結ばれてしまった結婚は「憧れ」どころか、当時の言葉で「浮気な結婚(ふまじめな結婚の意)」とさえ呼ばれ、NG視されていたのです。

    明治になってからも、自由恋愛はまだまだ偏見で見られがちで、「お見合い」のシステムは充実する一方でした。西洋から輸入された最新技術・写真を使ってのお見合いも行われるようになりました(未婚の、それも見知らぬ男女が直接会う機会が本当に限られていたことがわかります)。1880年代には大阪、ついで東京で結婚相談所がビジネスとして大々的にはじめられ、「お見合い結婚」にもバリエーションが生まれていきます。

    江戸時代男性

    いつから「恋愛結婚」が主流に?

    一方、昭和中期にあたる1960年代から「お見合い結婚」ではなく、「恋愛結婚」するカップルの数が増えはじめました。第二次世界大戦後になって日本でも男女共学の開始や、女性も男性にまじって仕事をすることが普通という風潮が生まれた結果です。

    これと同時期の昭和中期になった頃、結婚したい男女とその家族がホテルのラウンジや料亭の一室に晴れ着で集まり、会食を共にするという「お見合い」システムが一般化したようです。いかにも古式ゆかしいイメージがありますが、本当に昔だとこういうことすら倫理観が邪魔して出来なかったのですね。

    2000年代には一説に87%近いカップルが恋愛の結果、結婚する…つまり恋愛結婚こそが結婚の主流というように日本の結婚の歴史は動いていきました。つまりこれは、結婚生活の維持だけが女性のなすべき第一の仕事ではなくなったという大きな変化があったことを意味しているのです。

    教会のチャペル
    著者:堀江 宏樹(ほりえ ひろき)
    著者:堀江宏樹

    作家・歴史エッセイスト。古今東西の恋愛史や芸術・文化全般などについての執筆活動を続けている。

    最近の出版物としては、原案・監修を務める『ラ・マキユーズ ヴェルサイユの化粧師』(KADOKAWA)のコミック第1巻が発売中。『 本当は怖い世界史 』シリーズ最新刊の 『愛と欲望の世界史』(三笠書房)も好評発売中。

    堀江宏樹さんTwitter⇒https://twitter.com/horiehiroki

     撮影:竹内摩耶

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