わたしたちのラブストーリー

私らしく、勇気を出して
第五話 セカンドバージン 紗季

公開日: 2020/08/03  最終更新日: 2021/01/07
第五話 セカンドバージン 紗季
     

    「私、紗季先生みたいな40代になりたいんです」
    レッスン前、スタジオにモップをかけていたら、優絵と彩芽がやってきた。
    「この間、レッスンあとに出版社の方にインタビューされて。私達、そういう風にこたえちゃいました」
    伊沢が、スタジオ前で待ち伏せしたのだろうか。やはり私よりも若い生徒さんがねらいだったとか。

    「出版社の方、紗季先生のことずっと待っていましたよ」
    疑心暗鬼になっていたら、見透かすように優枝が言った。
    「そうそう。私、紗季先生の彼氏かと思ったもん」
    モップを手にしたまま、うつむいた。私ったら、若さに嫉妬している。

    レッスン前

    「……本当に、私みたいな40代になりたいの?」
    離婚後に起業して、ひとりでも大丈夫だと信じてきた。40代も後半になったら、男なんか自然に必要なくなると思っていた。
    でもいざ好意をよせられると、すぐに揺らいでしまう。大きな身体やあたたかい皮膚に、まるごと守ってもらいたいと切望してしまう。

    「40代って、けっこう情けないわよ」
    自虐的に笑ってみた。すると優絵と彩芽は、
    「30代だって大変です!」
    口々に言ったのだ。だからこそ、今、努力して後悔しない40代を迎えたいのだと。

    「紗季先生。これを見てください」
    『ウーマンズライフ』に隣接するカフェで、伊沢が差し出したのはアンケート用紙だった。
    「30代、40代でセックスレスの女性が多いかと思えば、50代、60代でもセックスをしている女性、したい女性はたくさんいるんです」
    驚くことに、70代や80代でも性生活を謳歌していた。確率は少ないとはいえ、女というものを閉じ込めることなく解放している。

    「伊沢さん。ひとりの男性として、こういう女性をどう思う?その、年配になってもセックスしたいと願う女性のこと」
    正直にこたえて、と私は念を押した。
    「僕は、すばらしいと思います。日本人男性は若い女性に傾倒しがちだけど、年を重ねた女性の素直な欲望を知ることによって、男性側も変わっていけばいいと思うんです」

    「伊沢さん、私……」
    実は、数ヶ月前から取り入れたいプログラムというか、グッズがあった。インナーボールやオイルなど、いわゆるセルフで女性器を鍛えたりケアするアイテムだ。
    本格的な更年期を迎えれば膣が委縮する可能性もあるし、予防のためにもケアを習慣づけるべきなのではないか。

    女性器のお手入れに抵抗感がある女性は多いだろう。でも、男性だって女性器は謎なのだ。まず女性側が理解を深めなければならない。
    それにパートナーがいる、いないに関わらず、自分の身体をまるごと慈しむことで、女性はみんな、内面から輝くはずだ。

    内面から輝くイメージ

    「紗季先生のように独立して、しかも内面から輝く女性に憧れる若い世代は多いんです」
    ……いつだったか、伊沢が私に言った。私は、女性のためにと謳った教室をひらいている。そんな私が実行に移さなくてどうするのだ。ヨガやハーブだけではなく、インナーボールやオイルなども、ここからポピュラーにしていけばいい。

    「伊沢さん。あの……、私の考えを聞いてもらえますか」
    顔から火が出そうになりながら、言葉を選んで伊沢に伝えた。伊沢は興奮したように身を乗り出し、
    「そうです、僕もそういう本を紗季先生と作りたいんです」
    私を、正面から見つめた。

    「でも私」
    プチ更年期の上に長年セックスしていない。こんな私が先導する形でいいのだろうか。
    「でも、何ですか、紗季先生」
    「私……」
    いっそのこと白状してしまえばいい。延々と気を持たせるより、私自身もけじめがつく。ここであの告白がなかったことになっても、傷は浅くてすむ。
    「私こそが、ご無沙汰なんです。もう10年以上も。笑っちゃうでしょう。『ウーマンズライフ』なんて主宰しているくせに、本当は身も心も不調。えらそうなこと言っているけど、自信なんかないんです」

    笑って、何でもない風をよそおった。ハーブティーを飲もうとしても、うまくいかない。指がふるえているのだ。
    だからきっと、本を書く資格はない。立ち上がろうとした私の手を、伊沢が握りしめた。

    「そういうところが好きなんです。きっとたくさん、悩んできたんでしょう?でも女性のために奮闘している」
    「離してください」
    私から、手を振り払うことができない。一度別の熱を感じてしまったら、もうひとりでいたくなくなってしまう。
    「……離してください」
    伊沢は、まったく離そうとしない。それどころか、いっそう力を込めてくる。
    「離したくないんです」
    大胆に言いつつ、次第に伊沢の手が汗ばんできた。正直な人だ。

    もがきながら、手探りで生きてきた。私の経験が、様々な女性の励みになるだろうか。
    セカンドバージンからのセックスへの道。私が自分をさらけ出すことで、前向きな女性が増えていくのなら。
    勇気を出しても、いいかもしれない。

    前向きな女性

    「伊沢さん。私を、助けてくれますか」
    私を、託していいですか。伊沢の手を握り返して、私は言った。

    年齢や立場、人間関係や容姿など、女性は各々の事情を隠し、今日も健気に過ごしている。胸の内をほんの少しでも明かすことができたら、もっと晴れやかに笑えるかもしれない。

    性的なコンプレックスは根深いけれど、手を差し伸べてくれる人は、必ずいる。男性に限定せず、女友達や、たとえば、そう、私のような。
    私は同じ女性として、そんな架け橋になりたい。

    「伊沢さん。女性は、いくつになっても輝けますよね」
    伊沢が何度も何度も頷く。
    「もちろんです」
    よかった、と安堵しつつ、私も泣き笑いの顔になっているのだ。

    著者:森美樹

    埼玉県出身。元少女小説家、小説家。2013年新潮社『R-18文学賞』読者賞受賞。 『主婦病』『幸福なハダカ』『私の裸』新潮社より刊行。他、著書多数。cakesにてエッセイ連載中。
    『アラフィフ作家の迷走性活』

    このページを見た人は、
    こんな商品を購入しています

    ナデテ フレッシュマスカット
    ツヤツヤの髪から恋、始めませんか?
    商品を見る
    ヌレヌレ・ベリーキッス
    ぷっくりキレイな唇で可愛い自分に
    商品を見る
    ネムリヒメ
    塗って眠るだけで若々しく、輝いていく素肌へ
    商品を見る
    コイイロパウダー
    メイクレスに見えるパウダーファンデーション
    商品を見る
    本草絵巻 しろつやびじん 薩摩みかん
    もこもこ泡で、透き通るような明るい素肌に
    商品を見る
    ダマスクローズウォーター(ブルガリア)
    優雅で上品なバラの化粧水で、肌も心も美しく
    商品を見る
    LCインナーボール
    デリケートゾーンを引き締めて、キュッと膣トレ
    商品を見る
    プエラリア・ハーバル・ジェル
    彼が『離したくない』すべすべ肌に
    商品を見る