コラボ小説「ガールズストーリー」

ガールズストーリー第3話 ~マッチングアプリの出会い~

公開日: 2020/07/07  最終更新日: 2021/04/27

ガールズストーリー(創業祭小説) 3話
     

    大輝がビール片手に旧友と馬鹿騒ぎしているのを視界の端に捉えながら、私は今、面識のない女たちと良い天気ですねーとかおいしいですねーとか言い合って焼きすぎた肉を食っている。

    なんとなく身を寄せ合って世間話をしている彼らの妻あるいは彼女たちは、みんないかにも「サッカー部の男子のオンナ」って感じだ。

    私もちゃんとそう見えてんのかな?

    年に一度、高校時代の部活仲間で集まって河原でバーベキューをしていることは知っていたが、その会にまさか自分も呼ばれるとは思わなかった。

    大輝が私を友達に紹介したいなんて言うのは初めてだったから、気が進まなかったけどのこのこついてきてしまった。

    良い感じに酔っ払った大輝が、三歳くらいの男の子を抱っこした男を連れて私の隣に戻ってきた。
    普段から名前だけはよく聞いている大輝の親友だ。
    どうもどうも〜と適当に挨拶を交わす。

    親友の男に「そういやふたり何繋がりだっけ?」と聞かれると、大輝は「えっとお〜」と目を泳がせて言い淀んだので、すかさず「あ、紹介です。職場の同僚の」と代わりに嘘をついてやった。

    安堵と気まずさの混じった大輝の表情を見て、アプリで出会ってその日にセックスした女と付き合ってるのが親友にも言えないくらい恥ずかしいんだったらこんな会に呼ぶんじゃねえよと思う。

    帰りの電車で大輝と二人になってようやく一息ついた。
    卒業して十年以上たってもあんなに親密で朗らかなイベントが毎年行われるコミュニティに彼氏が属しているという事実に面食らってしまった。

    「美樹ちゃん、いつも俺のこと紹介で知り合ったって言ってるの?」

    頬を火照らせた大輝がいじけたように言う。
    日焼け止めのべたつきが不快だ。

    「別に、基本はフツーにアプリで知り合ったって言うよ。でも大輝がなんか嫌そうにしてたから」

    「嫌じゃないけどお……。だってなんかアプリって言うの恥ずかしいし、かと言って嘘つくのもなんかヤダし」

    中高一貫の男子校のサッカー部出身で、ストレートで大学進学し、大企業というほどではないが安定した会社に就職した大輝は、きちんと段階を踏むことに快感を覚えるタイプの人間だ。

    学生時代からの彼女と二十代半ばで結婚して、披露宴には共通の知人を大勢呼び、三十前後で第一子出産とか、そういう「順調」っぽさに安心する男なのだ。

    だから四年付き合った元カノにディズニーランドでプロポーズして断られた時はもうほんとマジで死のっかなと思ったらしい。
    その時マジで死なずにマッチングアプリをインストールしたから今私と付き合ってるわけだけど。

    「あのさー、今時アプリで付き合うのなんて全然恥ずかしくないから」

    「だって、上司とか、アプリのこと出会い系だろ?ってバカにした感じで言ってたし」

    「適当に嘘つきなよ」

    「でもお、嘘つき続けるのもなんかやじゃない? 俺、嘘つくたびになんかちょっとずつすり減ってく気がする」

    「じゃ〜アプリで出会った女の子にホテル誘われたからホイホイついていったらおっぱいが大きかったので付き合うことにしましたって毎回バカ正直に説明すれば」

    ね〜おっぱいに釣られたわけじゃないっていつも言ってんじゃん!と大輝は超イヤそうな顔をするが、私ははっきり言って彼の顔に釣られた。

    とびきり格好いいわけじゃないけど、高校生の頃は可愛かったんだろうな〜モテたんだろうな〜っていう面影がたまらない。
    いちばんイイ時は過ぎたっぽい目元の哀愁をなんかエロく感じたのだ。

    私は大輝と違って段階をびみょ〜に踏み外すことに快感を覚えるタイプで、親に話せないような恋愛ばっかりしてきたし、適当な嘘をつくことにも全く抵抗がない。

    ガールズストーリー

    「えっやっちゃったの!?付き合う前にセックスしてうまくいくわけないじゃん!」

    オンライン飲み会は気軽だけど抜けるタイミングも難しい。
    画面の中では、交際前セックス絶対ダメ派の女が自前の恋愛論を生き生きと語っている。

    槍玉の女は「そうなんだよね〜私ほんと何やってんだろ」とため息をついているが、実際まるで反省していないのは火を見るより明らかだった。

    これは単に既婚者に対する自由恋愛楽しいよ自慢なので、バカ正直に説教垂れてもマジで意味がないのである。

    説教できてご機嫌の女と自慢できてご機嫌の女。
    ふたりともきもちーねえよかったね?
    お互いの尻尾を食べあう二匹の蛇に想いを馳せて上の空になっていると、急に「美樹ちゃんもそう思うよね?」と振られた。

    「いやー体の相性も大事だしねえ。まあ、お互いの気持ち確認してからセックスする方が無難だとは思うけど」

    「そうだよね! 私、付き合う前にエッチしてうまくいってるカップルなんて見たことない!商社マンだかなんだか知らないけどその男も絶対ろくなもんじゃないし絶対時間の無駄!一刻も早く手を切った方がいいと思う」

    どっちつかずな態度をとったつもりだったのに、なぜか彼女は全肯定されたと解釈して断言したので、思わず、あははっ!と笑ってしまって怪訝な顔をされた。

    なんかこの子一周回ってピュアな良い子なのかなとすら思えてくる。
    そりゃーみんな交際前にセックスしたとしてもあんたにはバカ正直に報告しないでしょうよこうやってガタガタ言われんのが目に見えてるんだから。

    大輝とアプリで知り合ったことも、付き合う前にセックスしたことも、私自身はちっとも恥ずかしいと思っていない。
    むしろ合理的だとすら思う。

    それでも、やっぱりそういう始まりを下に見てる人って結構いる。

    じゃあお前はどんだけ立派な恋愛してるんだよって言いたくなるけど絶対言わない。
    言う意味ないし。

    不寛容な空気を察知したら気分を害す前に適当な嘘つく。
    そんなのにいちいちすり減ったりしない。

    つまんないや。早く切りたいな。

    亜美と沙里に会いたいな、とふと思う。
    体面とか何も気にせずセックスの話したいなあ。

    ただいまあ、と大輝が帰宅する音が玄関から響いた。

    リビングで通話していたので、大輝がこんばんはーとちょっと顔を出したのをきっかけに、じゃあそろそろお開きにしよっか、という雰囲気になった。

    終了間際、男とすぐやっちゃう方の女に「美樹ちゃんとこは同棲かーいいなあ。週末何すんの?」と聞かれたので、「特になんにもしないかな〜。海外ドラマ一気見するくらいかな?」と、ソファでスマホをいじっている大輝の方をちらりと見ながら答えた。

    人の恋愛をバカにしないで生きたい、人をバカにするようなことを言うのは、現状への不満や不安の表れだと思うから。

    海外ドラマ一気見など真っ赤な嘘で私たちの週末はとにかくセックスをして過ごしている。

    朝起きて一回セックスして二度寝して雑なご飯食べてだらだらしてセックスしてウーバーイーツしてなしくずしで寝る。

    気が向いたら一回くらいはちゃんとご飯つくるけど、セックス・ハンバーガー・セックスみたいにジャンクフードをセックスで挟む休日は一点の曇りもなく幸せで、誰かをバカにしたい気持ちなど露ほどもわいてこない。

    他人がどういう恋愛をしてようが心底どうだっていい。
    だけど、自分の恋人が「アプリで知り合ったり付き合う前にセックスしたりする始まり方を下に見ている人間」であるという事実には都度新鮮に腹が立つ。

    当事者のお前が、私たちの出会いを否定すんなよ。
    恥ずかしいんならそもそもアプリなんか始めんなよ。
    百歩譲って恥ずかしがってもいいけどせめて罪悪感なく嘘くらいつけるようになれよ。

    苛立ち紛れにローターを乳首にぎゅっと押し付けると、大輝は切ない声をあげた。

    オモチャで乳首いじられるの好きだよね。
    睾丸から肛門にかけてじっくり舐められるの好きだよね。
    キッチンでセックスするのも好きだよね。
    でも全部自分からしたいって言えないよね?
    私のしたいようにされてるっていうのが好きなんだもんね。
    恥ずかしいねえ。

    身内になかなか紹介してくれなかったね。
    出会い系の女はバツが悪いよね。
    ほんとのこと言いたくないし嘘もつきたくないもんね、どうにもならないね、かわいそうだね?

    でも私は大輝のそういう、ちょっと見栄っ張りで、みみっちいところがたまらなく好きでもあるのだ。

    ガールズストーリー

    ひとセックス終えてバスルームへ行き、大輝を座らせてからだを丁寧に洗ってやる。

    「この石鹸なんかいいやつ?」

    されるがままの大輝が言った。

    「ん?それね、ジャムウソープっていうの」

    「女子に人気?」

    「そうだね」

    「職場の後輩が結婚するらしいから、お祝いにあげようかな……」

    私があわ立てた泡でもこもこになってる大輝の間の抜けた表情、保湿なんてしたことないちょっとよれた皮膚が愛おしい。

    股間まわりを丁寧に泡で包んでやりながら、「ねえ大輝、私たちも結婚しようか。幸せにするし、一生楽しませ続けてあげるよ」と言うと、大輝は「ええー嘘お。それ今言う?」と笑った。

    「今後も大輝が言いたくないこと私が代わりに全部言ってあげるからさ、安心してよー」

    初めてセックスした次の次のデートで「付き合おうか」って言ってあげたのも私だし、まだ会ったことのないあなたの両親にも笑顔で嘘ついてあげる。

    全部全部私が引き受けてあげるよ。
    大輝に楽させてあげる。

    美樹ちゃんはずっと俺の自慢だよ、うまく言えないから、あんまり人に言ってないけど……とうわごとのように大輝は言う。

    「結婚式どうしようか?美樹ちゃんにいちばん似合う綺麗なドレス着て、友達たくさん呼んでさ。可愛い美樹ちゃん、みんなに見せびらかしたいな」

    一瞬その光景を仔細に想像して手が止まってしまうが、すぐに首を振る。

    「式なんて絶対やりたくないよ。不経済じゃん。それより海外行って贅沢しようよ。それか、超良い家電買っちゃおっか?」

    「えーそうなの? でもまあ、それもアリかあ……」

    シャワーの湯がちょうどいい温度になったことを確認して、安心しきった表情の大輝に浴びせてやる。

    私は大輝の欲しい言葉をあげられる。
    妻が式はやりたくないって言うのでやりませんってみんなに言っていいんだよ、よかったね?

    誰も私たちにケチをつけられないし私も誰にもケチつけたりしない、それ以上も以下もないの。

    最後に股間の泡を流して清潔になったそこに顔をうずめた。

    私が世界で一番幸せ。

    著作者:小林早代子
    小林早代子

    1992年埼玉県生、早稲田大学文化構想学部卒。
    第14回「女による女のためのR-18文学賞」読者賞受賞。
    『くたばれ地下アイドル』新潮社より発売中

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