夫婦においてセックスって、一体なんだろう?
そもそもは、「子作り」である。地球上には様々な生物がいて、一部の両生類などを除くと、セックスをするから子どもが生まれ、その種が存続していく。とはいえ、人間のカップル(夫婦)にとっては、子作りのためだけにするものではない…というのが昨今の常識、である。
そして、不思議なことに、子作りをしたことで、その愛のコミュニケーションであるセックスが夫婦から消えてしまうことがあるというのも昨今の常識、なのである。
今回は、その夫婦関係のダブルスタンダードについて考えてみたい。
セックスで子どもを作ったはずなのになぜ妊娠出産でセックスレスに?

子作りをしてめでたく愛の結晶が生まれたものの、その後はセックスレスになり、ひいては夫婦関係そのものが悪くなってしまう…なんて話。よく耳にする。
結婚を決めた時、きっと誰もが「この人と一緒に幸せになるんだ!」とワクワクドキドキした気持ちで、輝かしい未来を描いたはず。その幸せな未来予想図には、子どもの存在もあったに違いない。なのに、妊娠・出産を起点にして、自分が望まない方向に人生が進んでしまう。
なんとも残念すぎるお話。
とはいえ、私にも3度の妊娠・出産の経験がある。だから、妊娠中と産後の時期に好きだったはずの夫が、ムカつく相手、いや仮想敵とでも言えるほどの、憎らしい相手になってしまうのって、分かりすぎるほどで…。
妊娠期間中に広がっていく夫婦間の子育て格差 胎児の存在が現実感を伴う妻と概念にしか過ぎない夫

すれ違いはまず、妊娠時期から発生する。
受精卵が着床するやいなや、つわりという症状を引き起こして、自己の存在をアピールする胎児。吐き気や倦怠感に苦しみながらも、すでに母である女性は、検診でのエコー対面に「やだ!うちの子、超かわいい」と胸をときめかせ、愛を深めていく。それが例え、心臓の動きしか見えない豆粒であっても。
でも、この時の父である男性って、「彼女が辛そうだから支えてあげなきゃ」程度。多くの場合、胎児に対する愛情はまだない。おそらく。
【ケース1】
中堅出版社に勤めるA氏は、優しそうな雰囲気の愛妻家。エコーを見せられ、「ふーん。これがそうなのか」レベルの対して興味がない本音を隠しつつ、嬉しそうにしている妻に合わせて「うわ! 大きくなってるね」などとコメントしていたそう。正直、テンションが上がり過ぎている妻に、若干引いていたとも…。(ちなみに、産まれたら可愛くて仕方ないと親バカに変貌したのでがっかりしないくださいね!)
最初は豆粒だった胎児も、時間の経過とともに、胎動やらリアルな重みやらで自己主張をさらに激しくしていく。同時に、女性は、親になる確かな実感を持ちながら、近い未来にやってくる子育てという激動の日々を乗り越えるための準備を整えていく。
かたや、男性は…まったく違う。
【ケース2】
都市銀行にお勤めのN氏は、「とうとう親になるのか〜って、よく夜中に一人で酒を飲みながらしみじみしてたよね」と、自分の想いを膨らませていたそう。つまり、オムツ替えとか2時間おきの授乳とか、子育ての現実に対する想像は全く及ばないまま出産の日を迎えたようだ。
同時にカップルの関係性も、変わっていく。恋人同士が結婚によって夫婦になり、父母になっていく…はずなのだ。
だけど、そのタイミングには個人差があり、ズレがあり、同時に「他人なんだな」と実感する機会に繋がっていってしまう。変化に富んだ時期の中で、いい面も悪い面も、新しい一面が見えていく。時には衝突することもある。そのたびに、理解を深めあえたと信頼を育てていけると本当はステキだ。
出産した瞬間に落下する夫の優先順位 産後1ヶ月経っても戻らない妻の性欲

さて、ここからホルモンの話になる。妊娠、出産、産後の女性って、ホルモンのバランスが目まぐるしく変わっていく。気持ちが不安定になったり、体調が悪いと感じたり。心身ともに、ホルモンに振り回されていく――。
で、出産。ホルモンはこの日、激変する。もはや、真夏から突如真冬になるくらいの変化である。さらには、新生児の世話、出産そのもので使った体力の回復も必要になってくる。もはや女性の体のto do リストはてんこ盛り。
出産の日までは、夫婦2人で「生まれるの、楽しみだね」「頑張って育てていこうね」とお互いの存在を大切する時間も持てただろう。日常生活の優先順位として「夫婦のコミュニケーションタイム」はかなり上位にあっただろう。おそらくこんな感じ。
- 1位 赤ちゃん無事に成長してるかな?
- 2位 残り少ない夫婦2人の時間を大切にしたいな
- 3位 残り少ない自分が自由に動ける時間を満喫しよう!
しかし、出産の日を境に、夫の優先順位はダダ下がりになる。
- 1位 赤ちゃんのお世話(授乳、オムツ替え、着替え、沐浴など)
- 2位 赤ちゃんのご機嫌伺い(泣いたらあやす)
- 3位 とにかく寝たい
ランキングの上位3位までは、確実に赤ちゃんと自分で埋め尽くされる。女性にしたら当たり前。
でも、夫は……………驚愕。で、驚いたまま日常生活に突入していく。目の前のオムツ、授乳、寝かしつけと格闘する妻と、ただただあたふたする夫。
はい。産後クライシスの文字がチラホラと夫婦間にちらつき始めてきた。
そして、解禁日である1ヶ月検診がやってくる。その日を待ち遠しく思う夫に対し、「セックスどころじゃない」と妻は恐怖を感じているかもしれない。赤ちゃんを抱いて産院に行って帰ってくるだけでやっとなんだから。私はというと、げんなりだった。「Hはまだだって」と嘘をつこうかと策を練っていたくらい。
だって、妻の性欲なんて湧き上がらないのは当然。授乳中には、プロラクチンという性欲減退ホルモンが大量に分泌されているのだから。
でも、ご安心を。夫婦間で「愛のコミュニケーション」に対する期待度に乖離が起こるのは、多々ある話。
「人生でセックスしない期間があるのは普通だと思いますか?」【40代以上の既婚女性100名を対象】

- はい:91件
- いいえ:9件
このアンケートを見ると、9割の既婚女性が「セックスしない時期があった」と答えている。これが結婚後なのかどうかまではわからないが、常にセックスがあることが“普通”ではないことがわかる。
ちなみに、こちらの女性たちの状況はこんな感じ。
Q1. 今年で結婚してから何年目か教えてください。(上位のみ表示)

- 20年以上:27件
- 15〜20年未満:19件
- 10〜15年未満:13件
Q2. 子供はいますか?

- はい:67件
- いいえ:33件
パートナーのことは好きですか?

- 好き:64件
- どちらかといえば好き:15件
- どちらとも言えない:13件
- どちらかといえば嫌い:7件
- 嫌い:1件
セックスレスを続けないためにはちょっとずつ歩み寄るしかないという当たり前の結論

さて、日本性科学会はセックスレスを「特殊な事情が認められないにもかかわらず、カップルの合意した性交、およびセクシュアル・コンタクトが1か月以上ない場合」と定義づけている。
産後は「特殊な事情」だ。では、この「特殊な事情」が解決した時に、再びセックスのある生活を取り戻していくにはどうしたらいいか?
産後1ヶ月、医師のGOが出たその当日に、「もうOKだって」「じゃあ…」とできればスムーズだ。が、母になった妻は、夜はできれば一刻も早く寝たいのが本音である。また、なぜか突如「セックスそのものがイヤでイヤで仕方ない」「夫に触れるのが生理的にムリ」という独特の心理状態になってしまう女性も少なくない。
【ケース3】
広告代理店勤務のTさんのご主人は、6歳年下のイケメン。新婚時代はほぼ毎日、妊娠中も週に1度はしていたそうで、まさにお盛んな夫婦でした。なのに、子どもが生まれてからは、「ムリ!」となってしまいます。夫が「したいなー」という雰囲気を出して、ちょっとお尻を触る程度でも、「うわ、キモっ」と鳥肌が立ってしまったと話していました。
その産後のムリな感じは、大抵の場合、ホルモンが安定してくると共に変化していく。ずっと「夫が嫌い」とか「近寄ってくるだけで寒気がする」というほどの夫婦関係は、何か他に原因があるものだ。
【ケース4】
パート主婦のSさんは、産後3年経っても夫を受け入れられずにいました。誘ってくる夫と毎度拒否してしまうので、「浮気しちゃうかも」と不安はあった。
でも、できない。なぜこんなにもできないんだろうと自分の心を探ってみると、「産後のつらい時期に、飲み歩いて、自分の体調も家計の心配もしてくれなかった。貯金もないし、収入も安定しない(ご主人はフリーランス)。このまま2人目を作る気持ちになれない」という気持ちがあることに気づいたそう。
そうではなく、夫のことが好き。子どものことや休日の予定について話していると、とても楽しい。そんな柔らかい気持ちを持っているのに、なぜか、性欲が湧かない。そんなこともあるだろう。
そんな時は、一人でのんびりできる時間に、夫と知り合った頃、キュンキュンしていた頃のデートなどを思い出してみよう。
そして、ある夜、夫が誘ってきたら、やる気がしなくても、エイっと頑張って応じてみてほしい。「まだ体力が回復してなくて、マグロでもいい?」と素直に言い、最初に謝っておくのも良い方法。たま〜にでもしていくうちに、心身が徐々に、“セックスありモード”に戻っていくから。
応じた翌朝は、妻が夫に歩み寄った分、今度は夫が妻に歩み寄る番。「昨日、したから、ちょっと疲れちゃって」と、朝食作りや赤ちゃんのお世話など、いつもやっていることを夫に肩代わりしてもらってはいかがだろうか?
いつまでも一緒にいたいから、結婚という道を選んだはず。 体が離れたら、夫婦仲もそのまま離れ続けて心も離れてしまう前に、体を先に近づけてみる。それは夫婦関係の悪化を防ぐ方法として、若干、荒療治な処方箋かもしれない。
でも、肌を触れ合わせた時に得られる心地よさを思い出せば、また、心も体も1番近い人同士になれるのでは、と実体験から思うのだ。

作家、編集、ライター/性風俗やセクシャルに関する書籍を多く執筆中