コスメがくれた、魔法。

コスメの魔法をもう一度
~茉依の場合~

公開日: 2023/12/21  最終更新日: 2023/12/26
2024福袋発売記念ストーリー
     

    登場人物

    桃田 茉依(ももた まい) 27歳 建築事務

    同棲中。彼の仕事が忙しくて、最近すれ違い気味で日家に帰っても悲しい。付き合いたてのころのようにもっと彼から求められたい…!と奮闘していたある日…。

    第一章

    私には、付き合って2年、同棲して1年になる3歳年上のパートナーがいる。彼との出会いは同じ職場だが、3か月前に彼が転職し仕事が忙しくなってしまった。

    「すれ違いになっちゃってるな」

    彼は「外資コンサルタント」。
    仕事の都合で朝早く家を出て、帰りも遅い日が増えた。

    外資だから、外国のクライアントと時間を合わせての仕事が多い。彼は自分磨きが好きなので、休みの日はジムかサウナか友だちと飲みにいくことが多く、文字通りのすれ違い気味。

    「……夕飯、どうしようかな」

    毎日家に帰って夕食を作っても、そのまま冷蔵庫行き。何より、付き合いたての頃のようにもっと彼から求められたい。

    私、桃田茉依は人当たりが良い方でトラブルを起こすタイプではないし、素直さがウリ。建築事務なので、お客様の要望を素直に図面にするお仕事ですし。
    つまり……

    「寂しいよ。仁さぁん」

    普通には仲がいいが、これではラブタイムにはもっていけない。一緒にお茶を飲むのも難しいし、頑張って起きていても彼が疲れているのに……ねぇ?

    第二章

    「よし、今日は頑張って待つぞ」



    なんてったって明日は休み!夜に向けてテンションが上がる金曜日である。
    「仁さんの好きなサーモンと、チーズの盛り合わせ……」

    ちらっと見かけた赤ワインは彼の好きなフランス産だった。私はかごに入れて意気揚々とスーパーを出る。



    「これ、おいしそう」と一目ぼれしたサーモングリル。香草を載せて、グリルにセット。

    『これで、少しでも茉依が楽に、おいしいものを作ってくれるといいなと思って』と用意してくれたグリルレンジ。

    実はあまり使ったことがないが、材料を入れてコースを選べば最高の焼き加減にしてくれるらしい。

    (うん、時短時短。少し遅めに設定したから、何時でも大丈夫)

    掃除しながらメッセージを送ってみた。



    『お疲れ様。今日は仁さんの好きな魚も焼いてみたよ~!』



    すぐにごめんなさいの猫のスタンプ。
    『ごめん、例の案件が炎上して今日も帰るの遅くなりそう』と返信が来た。

    カリカリカリ。
    窓のほうでなにか音がした。



    「こんなんじゃ、一生レスかも」



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    肩を落としたところで、またカリカリカリ。



    見れば黒猫がベランダの机に座っている。しかも、その黒猫は空いていた窓からするりと部屋に入ってきた。光沢のあるきれいな黒猫だ。サーモンの香りにつられてやってきたのか。



    「それは仁さんのために焼いてるの。あちちになるよ」



    仁さんの黒髪を思い出すような黒猫を抱き上げようとした途端、黒猫はくるんとまわって何かを落とした。


    「なにこれ」


    ダイニングテーブルの上には、魔法少女のアイテムのような書物。開くとコスメが現れた。

    「えっ……なにこれ、寂しい私へのご褒美?」
    パッケージをみると、5個とも香りのコスメの様子だ。


    「いーい香り……」


    思わずキャップを開けると、部屋に漂っている焼き立てのパイのような香ばしい香りがした。確かめていくと、ブルーベリータルトの香りのコスメのよう。



    「ナデテ、か」



    ほんと、ナデナデして欲しいよね、言葉とかいらないから。忙しないから休んでいいってそうじゃないの。一緒にいて、癒される必要だってあるんだから。

    独り言を残して、とりあえずナデテを髪に塗っていたら、気持ちも落ち着いた。

    うん、このまま彼を待とう。すれ違った時間を取り戻すんだ。

    第三章

    歩くたびに香るブルーベリータルトの甘い香りに上機嫌で、機械任せだった床掃除をして、テーブルクロスも新調した。



    待つこと2時間。



    サーモングリルもゆっくりと焼きあがっている。スープが欲しいと探していたところで、やっと彼のご帰宅だ。



    (あ、思ったより早い?)



    コスメのおかげで、時間が経つのが早かった。



    「なんか、いつもと匂いが違う気がする」

    玄関で仁さんが首を傾げた。「掃除したからかな」とか言いながら、髪を揺らしてみる。「これか」と指先が伸びてきた。

    (さあ、今日は金曜日だよ)と心で叫んでみる。

    「そっか、茉依の髪か」
    彼が鼻先を近づけてきた。

    キス、何日ぶりだろう。このコスメいい…!



    (このままいけそう)と思って「仁さん…!」と腕を伸ばしたところで、すいっと彼が離れた。

    ――――あれ?





     私の腕が行き場をなくしている。



    「俺、疲れたからもう休む。炎上案件は嫌だな。愚痴、聞きたくないだろ?」



    (ちょ、ちょっと待って!)



    「明日の昼に食べるから取っておいて。ああ、明日はゆっくりできるはずだから」



    そういって、出かけていくんでしょうが。邪魔はしませんからどうぞ。



    「ひとつだけじゃだめだったかな」



    バスルームのシャワーの音に、私はぽそっと呟いて、作った料理は小分けにして冷蔵庫にしまうことにした。

    第四章

    あれから数日後。



    ヘアカーラーを揺らして起きると、良い天気。
    翌日の朝、ダイニングに行くと『おはよう。ジムに行ってくる。お昼には戻るよ』の書き置き。床暖房にぼうっと立って私はダイニングに置いたままのコスメたちを見つめた。



    (こうなったら全部使ってやる!)



    脈がないわけじゃない。その証拠に、髪に気づいてもらえたんだから。

    「ジムから帰ってきたら、勝負!」

    順番に丁寧にパッケージを見ながら開封していく。どれもよい香りだった。

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    ―――そして彼はお昼には帰ってこなかった。夕方に帰ってきたので、聞けば「映画を見てきた」とのこと。同棲の時に「お互いを縛るのはやめよう」と誓って鍵を受け取った。

    仁さんが私に文句を言ったことはないし、欲しいものがあると相談に乗ってくれる。それはすごく嬉しい。

    「茉依、今日もアレ使ったの?いいね、この匂い」

    夕食時。余っていた材料で作った少しだけ質素な炒め物をつつきながら、仁さんが気づいた。「うん」と私はもくもくと食事を済ませる。

    仁さんは珍しく、私の会話に触れてくれるのに、私はちょっとだけ不満。その理由を言うわけにもいかず、最後に開けていない「リビドー」を手に寝室に引き上げた。



    「だめじゃん」



    (期待するだけ、辛すぎた。もう、お風呂入って一人で寂しく寝ようっと)



    背中合わせのキングサイズのベッドにももう慣れた。

    「茉依、どうぞ」先にバスタイムを済ませた仁さんに黙ってうなずいて、リビドーを手にバスルームに向かう。
    それでも、まだ期待しちゃうんだよ。いい匂いって言ってくれたから。

    バスタイムを済ませて、最後の期待を込めて、リビドーを1プッシュすると、わたしは台所に寄って、グリューワインを取り出した。



    ラブタイムがなくても、私はこの人が好き。
    そこを間違えちゃいけないよね。愚痴でも聞いてあげたいし、大切な時間だから。


    「仁さん、今日はね、寝るまで話聞くよ」


    トレイに出しそびれていたチーズと、グリューワイン。寝室に入ると、仁さんは「ああ」と目を綻ばせただけで、目を逸らせている。



    「わたしのこと、嫌いになった?」



    なんとなく、聞いてほしいのは私な気がして、ちょっと嗚咽気味になる。

    「そうじゃない」


    仁さんは振り切るように、短髪を揺らして優しい腕で私を包み込んだ。


    「ずっと我慢してた。この匂いほんとにずるい」


    「ええ?」


    「俺、タルトとか、焼き立てのフランス焼き菓子に弱いって知っているくせに」


    「ご、ごめん、そんなつもりじゃ」



    (本当に?)いつもの冷静さをなくしたような熱い抱擁に、私の心も溶けてくる。


    「茉依のこと寂しがらせるから、どうしたらいいかって考えた」


    きょと、と仁さんの目が丸くなって、三日月になった。わたしの頬のえくぼを突いた。


    「もっと甘い香りになったぞ」



    精悍な顔が首筋に近づいてくる。さっき、リビドーを塗った辺りだ。



    「綿あめを思い出すな。また、遠出して二人で浴衣着て花火大会にでも行こうか。いや、久しぶりに、ここで」



    「うん」




    仕事が忙しくて忘れていた。

    私たちは結構ベッドで弾けるタイプだったんだ。大人になったつもりでいても、私たちはまだまだ本音も言えなくて。ずっと我慢していたことも忘れて。



    「いいの? 眠いんじゃないの? 休みたいとかない?」





    「うん、一緒にいれば、それだけで安らげるんだ。忘れていたよ。それを抱きしめたら思い出した」







    ああ、久しぶり……



    いろいろな香りがわたしたちをゆっくりと包み込んでいくこの感覚。



    嬉しさも、寂しさも。

    それはラストノートの綿あめのように、甘く溶けてそっと心に残るだろう。



    END

    \作中に出てきたコスメはこちら!/

       
      

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