コスメがくれた、魔法。

コスメの魔法をもう一度
~彩耶の場合~

公開日: 2023/12/19  最終更新日: 2024/01/09
2024福袋用小説
     

    登場人物

    橘彩耶(たちばな さや) 29歳 IT人事

    積極的に飲み会に行ったり、マッチングアプリも使っていろんな人に会ってきたけど、ダメ男に引っかかったりとなかなかいい恋愛ができない。そろそろ真実の愛を見つけたいと思っていたある日…。

    プロローグ

    『大丈夫、僕ときみは数年後もここに一緒にいるよ』

    熱のこもったあたたかい繋いだ手を忘れることができないまま、別れた。学生時代から5年付き合っていた……彼と。

    第一章

    「もう二年なんだけどな」

    こんな風に寒い夜に呟くのは、後悔しているからだ、と気が付いてきた。
    そろそろ結婚の文字もちらつき始める29歳。幼馴染が子育てを始めたとか、続けて届く結婚式の招待状とか。心静かにさせてくれない“結婚適齢期”のいやな風が吹き始めた。

    なんとなく誘われ参加した合コンがハズレだったのか、妙な焦りが生まれた。
    少しでも男性ウケを良く、とヘアスタイルは前髪ありのストレートロング、服装は合コンに行けるコンサバ系を意識した。が、研究不足なのか、垢抜けしていないのか……やや野暮ったい気がする。

    マッチングアプリや合コンへの参加を繰り返してきた私。もう何度目の不発だろう。スタイルは悪くないほう(だと思う)し、人並みに正しく生きてきたはず。

    なのに、将来をこの人と共にしよう、と思える出会いはまだ訪れていない。



    いつも通り、大して盛り上がらず早々に解散となった合コンの帰り。そろそろイルミネーションが綺麗な時期だと思ったが、その通りだった。冬の都会の町並みは、ひどく美しい。そんな煌びやかな通りで、ショーウインドーに並ぶ可愛らしいパッケージのコスメを見つけた私は、思わず足を止めた。

    久しぶりに感じる、胸がときめく感覚。しかし、反射したガラスに自分の姿が並ぶように映って、気分が落ちた

    昔から割と遊んできたほうだ。自分にはそこそこ自信もあったはずなのに、ここ最近の度重なる不発で、美意識も、自信も持てなくなった私がそこにいた。

    きらきらと光るショーウィンドーの前を、足早に通り過ぎた。私には、どうせ似合わない。 濁った思いを胸の奥に押し込んだ。

    第二章

    「今頃は二次会かな」



    夜遅い時間の電車内は、とても静かだ。今日の合コンで作られたグループトークを開いてみても、新着メッセージはない。



    (これからもずっと、メッセージなんて来ないんだろうな)



    もうかなり前から、出会いを求めて。それでも、少し前まで自分は選ぶ側だと思っていた。

    でも、そうじゃない



    「私、選ばれてはいないんだ……誰にも」



    2024福袋用小説

    空いている座席にも座らず、ドアのそばに立ったままぼんやりと外を見つめていた時、自分が降りるべき駅に着いたらしいアナウンスが聞こえた。 慌てて飛び降りたせいで足を捻って、おろしたてのベージュのパンプスに黒い汚れが浮かんだ。



    踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。



    きれいなお月様が、ゆるく歪む。歪んで零れ落ちて、私は指先で目元を拭った。アイメイクが崩れないか心配になったが、もう今夜は全部終わったのだ。

    寂しいけど、明日に向かえるように自分で立ち直るしかない。



    「わたしはいつになったら良い恋愛ができるの…」



    月を見上げて呟いたとき、小さな鳴き声がした。見ると、小柄な黒猫がちょこんと手足を揃えて座っている。いつも通る、何の変哲もない公園だ。

    黒猫がにゃあ、と鳴き声を上げた。



    「ごめんね、あなたが食べられるものは持ってないの」と告げるも、黒猫はとことことついてくる。困ったな、と振り返った。 「うちでは、飼えないから、ね?」



    あれ?立ち止まった猫の足元に、小さめの本のようなものが転がっている。



    「なに、これ……」



    「にゃあ」



    やたらと光って見えるそれは、まるで魔導書のようにも見える。猫は私の目をじっと見つめたかと思うと、颯爽とその場を去って行った。

    体が勝手に動いて、本を拾い上げる。そして……そっと開いてみる。すると、次々と小さな光の粒が夜空に飛び散り、5つの光の環になった。一つ一つの環の中に、かわいい瓶や、ケースが見える。



    「な、なに、これ……?」



    やがて5つの光は形となって、手元にふわりと降りてきた。

    両手で抱えてまじまじと見つめる。これは……コスメ?

    ショーウィンドーで見かけたあのコスメを見た時のようなワクワク感。それが胸をいっぱいに満たす。非現実的で不思議な出来事なのに、恐怖感は一切なくて。

    なぜか、夜空がやけにまぶしく見えた。

    第三章

    朝日がまばゆく射し込んでくる朝。わたしは毛布に潜り込んだ。

    「何時……」と潜り込んで、はっとする。危ない、二度寝するところだった……!

    勢いよくカーテンを開けた。ベッドサイドには昨日のコスメが、昨日の出来事は夢じゃないよ、と語りかけるように並んでいる。



    (これ……貰ってもよかったのかな。昨日は勢いで持ってきちゃったけど)



    でも、私は間違いなく見たのだ。本から、5つの光が浮かんだ瞬間を。そしてそれがゆっくりと形になって、コスメになったすべてを。

    「これも……何かの縁、よね」言い聞かせるように呟き、並んだコスメに手を伸ばした。



    ロッカールームで支度を済ませて、社内用バッグを下げて執務室に入る。「おはようございます」と席に着いた所で、同僚がやってきた。



    「ねえ、もしかして今日、デート?」

    「え?」

    「いつもと雰囲気違うから。香水?すごくいい香り!」



    同僚は私が返事するより先に、さっさと自席に戻っていってしまった。 デート?香水?……もしかして。あの魔法のコスメ?



    それからというもの、私はあの魔法のコスメたちを次々と活用していった。

    香水の『リビドー』、ヘアオイルの『ナデテ』、リップグロスの『ヌレヌレ』……。

    ボディジェルの『プエラリア・ハーバルジェル』でボディケアも入念にするようになったし、なんだか前向きな気持ちでいられる日が増えた気がする。ふと思い立ち、久しぶりにマッチングアプリの写真とプロフィールを見直すことにした。



    つくづく、私は自分のステータスになるような条件ばかりを求めていたんだな、と思う。人として、ではなく、付属品として。自分自身の価値を相手で上げようとしていたのかもしれない。

    これからは、自分の価値は自分で上げよう。想い合える相手と出会うために。

    第四章

    あれから数日後。



    職場のロッカー室で、鞄に潜ませていた『恋粉』をシュッと振りかける。これは顔にも使えるボディパウダーらしく、肌がサラサラになるお気に入りのコスメだ。

    今日はこれから、アプリで出会った男性と初めて会う。プロフィールを新しくしてから初めてマッチングをした彼には、一目で不思議な縁を感じた。

    だからこそ、うまくいくといいな、と思う。でも以前のように気負いすることはなかった。 もう、下を向いて自信をなくすことはない。コスメたちが上を向かせてくれるから。

    2024福袋用小説

    実際に会った彼は、写真よりずっと爽やかで、端正な顔立ちに優しさが滲む好青年だった。逆詐欺だ、これは……。こんなこともあるんだ、と驚いた。

    彼が選んでくれたお店も、とても素敵な雰囲気だった。  ワインも美味しい。何より話がとても楽しくて、次も会いたいと思った。



    「あの……」



    店を後にして、そろそろ解散かな、というタイミング。彼がほんのりワインに染まった顔をこちらに向ける。



    「すごく良い香りがして、何だろう?と思ってたんですけど。今隣に並んで気付きました。もしかして、橘さんの香りですか?」



    「あ、そう、かもしれません」



    「なんていうか、すごく……好きです」



    向けられたのは、なんとも言えない、愛おしそうな柔らかい笑顔。すぐにはっとした様子で「香りが!ですね、すみません!」と慌てる彼を見て、胸の奥でときめきが弾けた。

    くすくすと笑う私を見て、彼が咳ばらいをする



    「また、お会いできませんか?」



    差し出された手に、恭しく触れる。まるで初恋が叶った少女のような気持ちで。

    はい、と頷いた瞬間、何かが溶けていくような気がした。

    繋いだ手は、今までで一番暖かかった。



    END

    \作中に出てきたコスメはこちら!/

       
      

    コスメがくれた、魔法。 記事一覧

    愛され女子の秘密ケアtop
    愛され女子の秘密ケア

    3ヶ月前、女子社員の注目の的である祐樹…

    失恋はキレイの入り口top
    失恋はキレイの入り口

    「好きな人ができた」 2年付き合…

    ヌレた唇にキスをしてTOP
    ヌレた唇にキスをして

    美大生の真央は、行きつけのカフェの店員…

    艶めくときめきリップtop
    艶めくときめきリップ

    看護師の愛美は入院しているイケメンの彼…

    その距離、あと少し。TOP
    その距離、あと少し。

    アラサー女子のまどかは、推しメンのユウ…

    Double Lover
    Double Lover

    イケメンキャラがヘルスケアをサポートし…

    目覚めよ、恋ゴコロ

    彼に振られてしまい、心もお肌もボロボロ…

    忘れられずに、二度目の春を

    年下彼氏、圭介からの別れ話を素直に受け…

    TOP
    恋のメイクレッスン

    彼氏いない歴=年齢のひなた。 ある日…

    たった二日で、上司が婚約者になってしまった。

    秘書として副社長に務めて二年の宮緒環。…

    恋する私の赤い糸〜運命の人に出会うまで〜

    マッチングアプリで男性から連絡がきた麻…

    誘惑天使甘え悪魔

    彼と付き合って3年、最近マンネリを感じ…

    あなたをかき乱したい〜ずっとそばにいて〜

    小説家を目指していたももは今は普通の企…

    「恋人」まであと●センチtop
    「恋人」まであと●センチ

    恋愛に興味のない彼に片思いする彩。 …

    ビジネスカップル(仮)はじめました。TOP
    ビジネスカップル(仮)はじめました。

    芸能事務所に所属しているものの、いまい…

    あなたのそばにいるだけでTOP
    あなたのそばにいるだけで

    カメラマンをしている百奈、突然のトラブ…

    スウィートタイムワンスモアTOP
    スウィートタイムワンスモア

    美羽は湊という気になっているカレがいる…

    恋のツボミに花を咲かせて
    恋のツボミに花を咲かせて

    同期の飲み会に大人っぽい雰囲気で参加し…

    すあしでもっと近付きたい!~本当にあった恋愛体験談~TOP
    すあしでもっと近付きたい!~本当にあった恋愛体験談~

    かかとが固くて、一日一回はストッキング…

    2024福袋発売記念ストーリー
    コスメの魔法をもう一度~茉依の場合~

    同棲中の彼とすれ違い気味の茉依の物語

    2024福袋発売記念ストーリー
    コスメの魔法をもう一度~潤の場合~

    恋愛経験ほぼゼロ。素敵な恋愛をしてみた…